釧路ロータリークラブ 国際ロータリー第2500地区 Rotary Club of Kushiro

タイ国カンチャナブリ州での国際奉仕事業

視察日時:2018年4月30日

1 カンチャナブリ州は,タイ国の中でも結核患者数が多く,また,薬剤耐性の患者数も多い。受刑者,HIV感染者のほか,隣国ミャンマーからの移民労働者が多く感染が広がる環境があることが影響している。受刑者,外国人だからといって適切な治療を実施しなければ結局,感染が拡大していくだけであるため結核の予防,結核の治療はすべての人を対象にし,すべての患者を治療することではじめて地域住民全体の健康を回復,維持することができる。そう考えたカンチャナブリ内のある病院(Paholpolpayuhasaena Hospital)の1人の女医(Dr Kittima Noppakaorattanamanee)が結核撲滅のために動いたのが始まり。

2 事業内容としては,X線機械を積んだ移動式トレーラーを使用して,カンチャナブリ内をすべて回り,できる限りの人たちを対象にスクリーニングするというもの。そのためには医療サポートチームが必要なだけでなく,この事業内容を知らしめるためのキャンペーンを実施することが有益であり,そのキャンペーンを手伝うための人的・物的資源が必要となる。さらに結核治療自体に必要な金銭的な援助も必要となる。そこで,2017年春頃から各方面(行政,民間企業,住民)に対し,結核予防・撲滅の必要性を説き,結核予防・撲滅事業への協力を求めた。なかなか理解が得られない中,昨年4月から,女医を中心にした医療スタッフが先行して,まずは病院関係者等,医療スタッフに近い人たちを対象にしてスクリーニングを開始した。また,平行して毎月1回,刑務所に赴き,スクリーニングを実施した。病院関係者等比較的身近な人たちを対象にしたスクリーニングを第1段階として,次に,労働者を対象にしたスクリーニングを第2段階,そして,それ以外のすべての住民を対象にしたスクリーニングを第3段階と位置づけてスタートした。第1段階は2017年の4月から9月まで。現在は第2段階に入っている。すでに合計3万人を対象にスクリーニングしている。第1から第3段階終了まで約1年半がかりのプロジェクトである。住民を対象にしたスクリーニングは対象も広いためすでに同時平行して行っているところである。タイ人か否か問わず,できる限り全員を対象にスクリーニングしたいと考えていたため,スクリーニングする際には氏名等をカードに記入してもらい一人ずつデータを収集している。

3 第1段階の時点ではなかなか理解・協力を得られなかったため,女医は1人でこの事業を推進し,そのために1人で涙を流す日々を過ごしていたという。そんな中,カンチャナブリ内にある7クラブの一つであるManeekanRC(マニカーンRC)(ニタヤ会長(女性):メンバー数30人程度)がこの事業に手を差し伸べることになった。これが今回のグローバル補助金事業(以下「GG」という)である。マニカーンRCの「マニーカン」とは,タイ語で「宝石」を意味し,「カンチャナブリの宝石」ということでメンバーが全員女性となっている。マニカーンRCがホストクラブ,釧路RCがインターナショナルクラブ(スポンサークラブ)となり,2017年秋頃にオンラインツールを通じてGGの申請をし,2017年10月,承認されるに至った。

4 グローバル補助金の事業内容は,メディアを活用した結核予防・撲滅キャンペーンの実施,結核診断(スクリーニング)のキャンペーンの実施,結核予防講習の実施,結核患者の発見から治療につなげるためのプロセス,ノウハウの提供等といったことである。カンチャナブリ保健省がキャンペーン実施のための人的支援をしている。

5 今回,訪問したのは,移動式X線を用いてスクリーニングを行っている現場二箇所である。最初の訪問地は,カンチャナブリ州に14区ある区の中のTamuang地区である。ここの寺院で大々的なキャペーンが行われていた。境内の敷地に,多くのテントが張られ,多くの食事と飲み物を無料で提供されていた。また,看護師も派遣され,訪れた人の血圧を図ってもいた。移動式X線機械が積まれたトレーラーも来ており,希望者に対しスクリーニングを行っていた。テント内で飲食を振る舞う人はもちろんだが,テントを訪れた人にもマニカーンRCが製作した「Stop TB」(結核撲滅)とタイ語で書かれた水色のTシャツが配布され,皆,これを着用していた。私達も事前にこのTシャツをもらっていたのでこれを着用して訪問した。1000人以上もの人が集まり,さながら祭りのような状況であった。この日は午前7時から午後9時までこの場でスクリーニングをするとのことであった。第2段階の一環として,翌日以降,X線機械を積んだトレーラーで近隣の工場を回り,工場で働く労働者を対象としたスクリーニングを行う予定であるとのことである。この事業に賛同する企業からの寄付金が寄せられ,寄付金の紙幣を供花のように見立て,行列を作り,寺院に納めるという儀式が行われていた。大々的なキャンペーンが実施される日であったため,カンチャナブリ州知事(軍人と思われる)が現場を訪問し,スピーチをしていたし,テレビ局も取材に来ていた。

二つ目の訪問地は,学校の広場のような場所であった。ここは別の区であったが,対象は住民である。7月まで,この場所で,毎日,午前9時から午後5時までスクリーニングを実施しているとのことである。

6 スクリーニングした結果,結核患者であることが判明した場合,医療サポートチームにより適切な治療を基本的に受けさせることになる。女医いわく,とにかくカンチャナブリでの結核の発生を止めたい,撲滅したいとのこと。カンチャナブリからスタートしたこの事業を今後,カンチャナブリ以外のところでも実施していきたいとのこと。一方,マニーカンRCのニタヤ会長は,結核の撲滅事業を,国際ロータリーのポリオ撲滅のような事業にできないか検討しているところである。